相続放棄と限定承認の違い
1 相続放棄と限定承認は多くの点で異なる手続きです
相続放棄と限定承認は、承継する相続財産・負債の範囲を変えるという点では共通していますが、主に次の点が異なります。
①相続財産・負債を取得する範囲
②手続きに携わる相続人の範囲
③手続きの費用、複雑さ、終了までの期間
④税金の扱い
以下、それぞれについて説明します。
2 相続財産・負債を取得する範囲
⑴ 相続放棄の場合
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるという法的効果が発生します。
これにより、相続財産は一切取得することができなくなりますが、同時に相続債務も一切負担しなくて済むようになります。
⑵ 限定承認の場合
限定承認は、相続財産の範囲内で相続債務を引き継ぎます。
そして、相続財産を売却換価して相続債務を清算し、残余財産が存在する場合には、その部分は引き継ぐことができるという手続きです。
また、相続財産の中に自宅不動産など、どうしても取得したい財産がある場合には、先買権という権利を行使できることがあります。
相続人が購入のための資金を用意できることが条件となりますが、先買権により、取得したい相続財産が競売によって換価される前に、相続人が優先して買い受けることができます。
3 手続きに携わる相続人の範囲
⑴ 相続放棄の場合
相続放棄は、各相続人が単独で行うことができる手続きです。
他の相続人への通知等も不要です。
⑵ 限定承認の場合
限定承認は、相続人全員が共同で申述する必要があります。
そのため、すべての相続人間で連絡を取り合い、事前に調整をする必要があります。
4 手続きの費用、複雑さ、終了までの期間
⑴ 相続放棄の場合
相続放棄は、申述人の方がご自身で申述するのであれば、一般的には数千円~1万円程度の費用でできます。
弁護士に依頼した場合でも、複雑でないケースであれば、数万円程度の費用でできます。
相続放棄をする際は、相続放棄申述書の作成、戸籍謄本類等の収集をし、これらを管轄の家庭裁判所に提出します。
その後、家庭裁判所からの質問状へ回答をし、問題がなければ家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書の交付を受けて終了します。
申述から終了までの期間は、一般的には1~3か月程度です。
⑵ 限定承認の場合
限定承認は申述人の方がご自身で申述したとしても、官報への掲載費用が4~5万円かかることから、最低でも5~6万円程度が必要です。
弁護士に依頼した場合、限定承認は相続放棄よりも手続きが複雑であるため、一般的に30~50万円程度の弁護士費用が必要になります。
限定承認は、一般的には以下の順序で進行します。
①相続人全員で限定承認の申述をする旨の調整
②相続財産・相続債務の調査
③限定承認申述書と財産目録の作成、戸籍謄本類等の収集
④限定承認の申述(③の書類を管轄の家庭裁判所に提出)
⑤申述から5日以内(相続財産清算人が選任される場合は10日以内)に官報公告
⑥債権を申し出た相続債権者、受遺者への弁済
⑦被相続人の財産売却・換価
⑧残余財産がある場合には取得手続き
申述から終了までの期間は、一般的には1~1年半程度となります。
5 税金の扱い
⑴ 相続放棄の場合
相続放棄をした場合、被相続人に関わる準確定申告も必要なくなります。
⑵ 限定承認の場合
限定承認をし、被相続人の財産を売却した場合には、準確定申告を行う必要があります。